はじめに

現在、数多の産業分野において「デジタルツイン」の技術が利活用されています。 デジタルツイン(Digital Twin)とは、実際の世界から得たデータを使って、デジタルな仮想空間に双子(ツイン)を作り上げ、さまざまなシミュレーションを行う技術です。現実世界の事象を仮想空間にコピーすることから「デジタルの双子」の意味としてデジタルツインと呼ばれます。デジタルツインは、現実世界で再現が難しいシミュレーションをはじめ、共同作業のプラットフォームとして働き方を大きく変える可能性のある技術です。

デジタルツインの起源

デジタルツインの起源は、1960年代に現実世界のコピーをデジタル空間に再現するというコンセプトで開発された、NASAによるペアリング・テクノロジーといわれています。実際に1970年に打ち上げられたアポロ13号は宇宙空間で事故に遭いますが、地上の管理センターにあるアポロ13号のデジタルツイン上で宇宙飛行士と地上のエンジニアの間でシミュレーションを行い、的確なトラブルシューティングにより危機を乗り切ることができたという実例があります。

従来のシミュレーションとの違い

従来のシミュレーションは、あくまで想定された条件の組み合わせを使ったバーチャルモデルでした。しかし今ではIoTやAIの進化がめざましく、IoTで取得した膨大なデータをクラウド上のサーバーにリアルタイム送信し、AIが分析と処理を行うことで物理空間の精緻な再現が可能になりました。よりリアルに再現された仮想空間上で未来をシミュレートし、予測される変化をデジタルツイン上で表現できることが大きな特長です。

これにより、例えば製品の設計や製造やメンテナンスなどの工程で、あらかじめリスクとなる事象を見つけることでトラブルを未然に防いだり、製品の品質向上に役立てることができます。特にデジタルツインでは現場で働く人もシミュレーションできるため、効率よい働き方や作業の改善で、リードタイムの短縮や生産性の向上にもつながります。
その一方、デジタルツインのシミュレーションがない場合、実際に現場作業を行わなければならず、トラブルが発生した場合には、その場で原因を特定し都度対処する必要があるため、その分の時間やコストがかかることがあります。

従来のシミュレーションとの違い

デジタルツインの活用事例

あらゆる分野でデジタルツインの活用が進んでいますが、代表的な事例をいくつかご紹介します。

自動車の生産工場
自動車工場全体をデジタルツイン化し、生産ラインのテスト、パーツの組み合わせや新たな車種に対応した生産ラインの構築を行いました。作業員の正確なシミュレーションにより、部材配置の最適化と安全性の確保、資材運搬ロボットの流れの改善などで、効率のよい働き方を実現しました。

物流倉庫
物流倉庫を仮想空間でデジタルツイン化し、複雑な出荷作業をシミュレーションしました。事故リスクの軽減、倉庫在庫量の最大化、在庫の効率的な移動、ロボットの認識システムの速く正確なトレーニングで運用効率を上げるなどをシミュレーションし現実の倉庫に反映させることで、生産性と働き方の改善に役立ちました。

都市計画
国内では、国土交通省が推進する全国の都市を3Dでデジタルツイン化するプロジェクトがあります。GISデータ都市計画の立案やシミュレーションでまちづくりに役立てる試みです。日本各地の3Dモデルデータをオープンデータとして誰でも使えるようにし、民間サービスへの利活用をはじめ、災害対策や人流シミュレーションにより、さまざまな分野での課題解決に期待が持たれています。

その他、各国の行政による都市課題への活用例

イギリス ー 地下のインフラ所有者が持つ地下データを、許可されたユーザーと安全に共有するための地図情報基盤を整備。デジタルツインのシミュレーションで地下掘削の計画や実施に役立てています。

フィンランド ー ある地域の3D都市モデルを構築し、オープンデータとして公開。風向きや日照時間、日陰を可視化することでエネルギー活用へとつなげています。

オーストラリア ー 市内のバス停などの地物や、燃料価格やEV充電スペースの電力をリアルタイムで可視化しています。また、緊急時における対応の効率化、迅速な状況把握の実現も期待されています。

東京都 ー 東京都では、2040年までにデジタルツイン上で高度なシミュレーションを実現する「デジタルツイン実現プロジェクト」を計画しています。都政のQOS(Quality of Service)や都民のQOL(Quality of life)の向上を目的とし、防災・まちづくり・モビリティといった複数の領域での活用を予定しています。

上記の例にあるとおり、製造工程の改善やサービスの創出、都市設計から防災にいたるまで、一連のライフサイクル全体にわたりデジタルツインは利活用されています。

デジタルツインの課題

まず挙げられるのは、デジタルツインのフォーマットが標準化されていないことで、異なるシステムやプラットフォーム間での連携が難しいという課題があります。また膨大なデータをリアルタイムで収集・処理・分析するには高レベルのインフラが必要となります。さらにデジタルツインから得られる情報を適切に抽出するスキルが求められることや、データの機密性を高め不正アクセスやデータ漏えいへの対策が不可欠なことなどが課題となっています。

今では初期投資や技術的な複雑性を軽減するプラットフォームも提供されています。プロジェクトに参加する複数のメンバー同士でリアルタイムな共同作業を可能とし、生産性の向上が期待できるサービスです。

詳しくはこちら→ BXO Cross Reality(XR)(ページ下部にデジタルツインの共同作業を可能にするNVIDIA Omniverseご紹介)

まとめ

現実とデジタルのギャップを埋め、新たな価値を創出するデジタルツイン。現実空間では実施することが難しいシミュレーションを、仮想空間に低コスト・短期間で行うことができる技術です。 今後は、AIと深く連携し学習能力を備えたデジタルツインにより、さらに高精度の予測をはじめ、製品やサービス開発・製造・運用・保守・改善の効率的かつ高度な最適化や、さまざまな課題を解決していくことが考えられます。 またARやVRと統合し、よりリアルな体験を実現することで、製品開発やトレーニング、メンテナンス分野での活用も期待されています。技術の進歩やビジネスの需要によって活用方法は未知数ですが、デジタルツインは企業におけるDXの取り組みの一部として、私たちの働き方の可能性を広げてゆくのかもしれません。

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